現代のビジネス環境では、技術の進歩や市場の変化に迅速に対応することが求められています。その中で、従業員のスキルアップや新しい分野での知識習得は欠かせません。そんな中、企業が従業員に対してリスキリング(再教育)を行う際に助成金を活用できる制度が「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)」です。このブログでは、その概要や利用方法について詳しく解説します。
本記事は厚生労働省「事業展開等リスキリング支援コースのご案内」と「事業展開等リスキリング支援コースのご案内(詳細版)」を基に作成しております。
目次
1.概要
2.支給対象
3.対象となる訓練等
4.対象となる経費等
5.助成額等
6.手続きの流れ
7.まとめ
1.概要
目的
新規事業の立ち上げや既存事業の高度化、IT化に対応するために、従業員が新たな知識や技能を習得する訓練を実施した場合、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成します。例えば、建設現場での3D設計技術の習得など、ICT技術の講座を受講する際に活用できます。
背景
急速な技術革新やグローバル化による産業構造の変化が進む中、企業の競争力を強化し、労働者のキャリア形成を支援するために設けられた制度です。
2.支給対象
支給対象となる事業主
▷雇用保険適用事業所の事業主
▷職業能力開発推進者を選任している
▷職業訓練期間中も該当従業員に適正な賃金を支払っている
▷助成金支給または不支給に係る書類を整備、5年間保存している
▷事業展開等実施計画を作成する事業主
訓練対象者
申請事業主における被保険者
基本要件
訓練の形式:
▷OFF-JT(職場外で行う研修)で実施されること。
▷実際の訓練時間が10時間以上であること。
訓練の内容:次の①または②のいずれかに該当する訓練であること。
① 事業展開に伴い、新しい分野で必要な専門知識や技能を習得するための訓練。ただし、訓練は開始日から3年以内に予定されているか、6か月以内に実施されたものであること。
② 事業展開はしないが、企業内のデジタル化(DX)やグリーン化(カーボンニュートラル)を進めるための専門知識や技能を習得するための訓練。
特別な訓練の場合:
▷eラーニングや通信制の訓練は、標準学習時間が10時間以上、または学習期間が1か月以上であること。
▷定額制サービスによる訓練は、受講時間(標準学習時間)の合計が10時間以上であること。この時間は実際の動画視聴時間ではなく、標準学習時間でカウントされます。
※単にデジタル機器を使用して文章・数値の入力や、書式・レイアウトの変更程度の初歩的な操作を行う内容のみの訓練は対象になりません。
※単に既存のアプリやシステムを購入してその操作方法を習得する場合や、コンサルタントによる指導は、対象になりません。
3.対象となる訓練等
事業内訓練:以下のいずれかに該当する事業内訓練
▷自社で企画・主催・運営する訓練計画により、いずれかの要件を満たす社外より招へいする部外講師により行われる訓練等
▷自社で企画・主催・運営する訓練計画により、いずれかの要件を満たす部内講師により行われる訓練等
▷事業主が自ら運営する認定職業訓練
※事業内訓練とは、従業員が実際の職場環境で行う訓練です。この形式の訓練では、業務を通じて実践的なスキルや知識を習得します。上司や先輩が指導役となり、日常業務をこなしながら学んでいくのが一般的です。
事業外訓練:社外の教育訓練機関に受講料を支払い、受講させる訓練等(次に掲げる施設に委託して行うもの)
▷公共職業能力開発施設、職業能力開発総合大学校、職業能力開発促進法第15条の7第1項ただし書に規定する職業訓練を行う施設、認定職業訓練を行う施設
▷助成金の支給を受けようとする事業主以外の事業主・事業主団体の設置する施設(eラーニングによる訓練等及び通信制による訓練等を行う施設の場合には、当該施設が提供する訓練講座が広く国民の職業に必要な意識及び技能の習得を図ることを目的としたものであることが必要であり、特定の事業主に対して提供することを目的として設立される施設は除く。)
▷学校教育法による大学等
▷各種学校等(学校教育法第124条の専修学校、同法第134条の各種学校、これと同程度の水準の教育訓練を行うことのできるもの)
▷その他、職業に関する知識、技能、技術を習得させ、向上させることを目的とする教育訓練を行う団体の設置する施設
※事業外訓練とは、職場の外で行う訓練です。セミナー、研修会、eラーニングなど、職場を離れて実施される形式の訓練です。
4.対象となる経費等
対象となる賃金
訓練期間中の所定労働時間内の賃金について、賃金助成の対象となります。
※所定労働時間外・所定休日(予め別日に所定休日を振り替えた場合は除く)に実施した訓練は賃金助成の対象外です。
※ eラーニングによる訓練等、通信制による訓練等及び育児休業中の訓練は、賃金助成の対象外です。
対象となる経費
事業内訓練:
▷部外講師への謝金・手当
▷部外講師の旅費
▷施設・設備の借上費
▷学科や実技の訓練等を行う場合に必要な教科書・教材の購入費
▷訓練コースの開発費
事業外訓練:
受講に際して必要となる入学料・受講料・教科書代等、あらかじめ受講案内等で定めているもの
5.助成額等
助額・助成率
経費助成 | 賃金助成 (1人1時間当たり) |
75% (60%) | 960円 (480円) |
※()内は中小企業以外の助成額・助成率
※建設業における中小企業とは、【資本金の額または出資の総額が3億円以下】
または【企業全体で常時雇用する労働者の数が300人以下】の企業です。
支給限度額
経費助成限度額(1人1訓練当たり):1人1訓練当たりのOFF-JTにかかる経費助成の限度額は、実訓練時間数に応じて下表のとおりです。
企業規模 | 10時間以上 100時間未満 | 100時間以上 200時間未満 | 200時間以上 |
中小企業主 | 30万円 | 40万円 | 50万円 |
中小企業以外の事業主 | 20万円 | 25万円 | 30万円 |
※専門実践教育訓練の指定講座の訓練については、一律「200時間以上」の区分となります。
※ eラーニング及び通信制による訓練等(標準学習時間が定められているものは除く。)については、一律「10時間以上100時間未満」の区分となります。
※ 定額制サービスによる訓練の場合は、訓練時間数に応じた限度額は設けません。
賃金助成限度額(1人1訓練当たり):
1,200時間が限度時間となります。ただし、専門実践教育訓練については1,600時間が限度時間となります。
支給に関する制限:
▷訓練等受講回数の制限:助成対象となる訓練等の受講回数の上限は、1労働者につき1年度(※)で、3回までです。
▷1事業所の支給額の制限:1事業所が1年度(※)に受給できる助成額は、1億円
※支給申請日を基準とし、4月1日から翌年3月31日まで
6.手続きの流れ
STEP 0:職業能力開発推進者の選任、事業内職業能力開発計画の策定・自社の労働者に対する周知
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STEP 1:計画提出(最寄りの労働局へ)
▷事業内職業能力開発計画に基づき、職業訓練実施計画を作成する
▷作成した必要書類を訓練開始日の1か月前までに管轄労働局に提出する
▽主な提出書類
所定の様式 | ・職業訓練実施計画届 ・事業展開等実施計画 ・訓練別の対象者一覧 等 |
添付書類 | •訓練内容を確認できるカリキュラム •訓練期間中の労働条件がわかるもの(雇用契約書の写し等) 等 |
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STEP 2:訓練実施
▷職業訓練実施計画に基づき訓練を実施する
▷支給申請までに、訓練にかかった経費全額を支払う
▼
STEP 3:支給申請(最寄りの労働局へ)
▷訓練終了日の翌日から2か月以内に、必要書類を管轄労働局に申請する
▽主な提出書類
所定の様式 | ・支給申請書、賃金助成の内訳等助成額を算定した書類 ・ OFF-JT実施状況報告書 等 |
添付書類 | ・事業主が訓練費用を負担したことを確認できる振込通知書 ・出勤簿、タイムカード、賃金台帳の写し 等 |
出典▼
「事業展開等リスキリング支援コースのご案内」
「事業展開等リスキリング支援コースのご案内(詳細版)」
詳細▼(申請書類等のダウンロードもこちら)
厚生労働省ホームページ
お問い合わせ▼
都道府県労働局(労働基準監督署、公共職業安定所)所在地一覧
助成金のお問い合わせ先・申請先
7.まとめ
人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)は、企業が新たな事業展開や既存事業の高度化に対応するために、従業員のスキルアップを支援する重要な制度です。この助成金を活用することで、企業は競争力を強化し、従業員のキャリア形成を促進することができます。
申請手続きは計画的に行う必要がありますが、しっかりと準備をすれば、多くのメリットを享受できます。特に、技術革新が進む現代においては、リスキリングは企業の成長戦略に不可欠な要素です。
従業員の育成に力を入れることで、企業全体のパフォーマンス向上にもつながります。この助成金制度を上手に活用し、未来に向けて強い組織を築いていきましょう。
※本記事は、助成金の活用を推奨するものであり、助成金の採択を保証するものではありません。お問い合わせは、各都道府県労働局へお願いいたします。
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